「被害者」情報の開示(4)

 報道によると、この事件では、被害者とされる女性の住所が書いてある証拠が、弁護人に開示されました。弁護人は、女性の住所をマスキング処理しないで、被告人に開示したようです。

 この女性は法廷で証言したので、裁判所は、その供述が記載された調書(証人尋問調書)を作成しました。証人尋問調書には、証人であるその女性の住所が書いてあります。調書は弁護人に開示され、弁護人は、女性の住所をマスキング処理しないで、被告人に開示したようです。

 証拠や調書をマスキングしないで依頼者に開示したことについては、弁護士の中にも、この事件の弁護人を非難する人がいます。

 こういった非難は、あまり刑事事件を扱ったことのない弁護士に多いようです。

 しかし、報道されている事実だけで、弁護人と依頼者との信頼関係や、事件の性質、審理状況に関する詳細な情報がないなか、この事件の弁護人を非難することは、弁護士として、無責任なことと思います。

 本件は、被害者とされる女性の供述の信用性が争われている事件と思われます。依頼者の言い分によれば、被害者とされる女性は、「自称被害者」であって、その供述はでたらめであり、そのために、無実の自分が犯罪者として刑務所に送られそうになっている、ということなのかもしれません。弁護人は、女性に対する反対尋問において、その証言を徹底的に弾劾しなければなりません。仮に、そのような状況だったとして、弁護人が、相手方から求められてもいないのに、勝手に、その「自称被害者」の心情を慮って、証拠を黒塗りにして依頼者に渡す、ということが、弁護人のすべきことなのか疑問です。「先生、どうしてこれ、黒塗りなんですか?」「別に、相手からあなたに知らせないように求めがあったわけではないけど、私が、彼女の心情を慮って、あなたに知らせないようにしたんだよ。」「先生は私の味方なんですか・・・?」そんな光景が目に浮かびます。

 報道によれば、この事件の弁護人は、マスキング処理しなかったことについて、「弁護人は被告人のために仕事をする。」と答えたといいます。

 私は、この弁護人が誰か知りませんが、この弁護人の発言には敬意を表したいと思います。

 私の尊敬する刑事弁護人が、「弁護人は、依頼者(被告人)に寄り添うもの。彼の味方であって、偏った存在でなければならない。弁護人は、裁判官ではない。公平な第三者ではない。」と言っていたのを思い出します。

 私は、弁護人が依頼者に開示するかどうかについて、正解はないと思っています。

 刑事訴訟法299条の3による制限があるとも思われない、すくなくとも、検察官は求めていない。そうであれば、これを依頼者に開示するかは、個々の弁護人の判断にゆだねられるべきです。(彦坂)

 

 

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